近年、企業の間で「DX」が推進されています。
「DX」とは、デジタルトランスフォーメーションの略称で、IT技術を活用して企業全体の業務や風土、文化を変革することを指します。
今後さらにデジタル化が進む社会の中で、企業が時代の波についていくためにはDX化を進める必要があるといわれており、政府からもDXの推進が呼びかけられています。
しかし、DX化は簡単にできるものではなく、企業全体を巻き込む変革となるので、それ相応のコストや労力がかかります。DX化には大規模なITシステム導入などが必要な場合もあり、コストを懸念して導入に踏み切れていない企業もあります。
そんなときこそ活用できるのが、国や自治体などで用意されている補助金・助成金制度です。条件さえクリアすれば返済不要の補助を受けることができます。
本記事では、DX化に使える補助金・助成金制度をわかりやすく解説していきます。
DX推進エキスパート
ITツールの導入・運用から経営戦略の立案まで、幅広い専門知識と経験をもってあらゆるDX化に従事しています。
2年前からRPA開発に携わっており、各企業のRPA開発と自社の業務効率化に従事しています。
DX / AI導入に使える助成金・補助金一覧
DX化を進めるためには、新たなITシステムを導入したり、外部に委託したりなど様々なコストが発生します。このコストが障壁となり、なかなか導入が進まない企業もあります。
DX化を進めるためには、DX推進の計画段階でコストの問題を解決する必要があります。
今、日本国内ではこのようなDX化に使える補助金・助成金制度が用意されています。
- IT導入補助金
- 事業再構築補助金
- ものづくり補助金
これらの助成金を活用することで、コストを抑えながらDX化を進めることができます。
しかし、これらの補助金制度は補助の対象となる条件や申請までの手続きが異なります。また、制度によっては交付まで時間がかかるものもありますので、申請する前にどの制度があってるのか、どのような流れなのかをしっかり確認する必要があるでしょう。
IT導入補助金
IT導入補助金とは、企業が抱えた課題解決や業務効率化などのために導入されるITツールの費用を一部補助してくれる助成金制度です。
RPAに限らず、ソフトウェア購入費やセキュリティシステム導入費など多岐にわたって補助されます。
IT導入補助金は「通常枠」と「デジタル化基盤導入類型」があり、枠によって補助内容が違うので注意しましょう。
通常枠(A・B類型)
通常枠は、中小企業や小規模事業者がITツールを導入する際の費用の一部を助成し、生産性向上のサポートをする制度です。
新しいツールの購入費などの費用の一部を助成することで、業務効率化や売上アップへの取り組みを図ってももらうのを目的としています。
IT導入補助金(通常枠)の対象となる事業者
以下の条件に当てはまる場合に補助を受けることができます。
- 下記表の定義に当てはまる中小企業・小規模事業者であること。
- 交付申請時点において日本国内で登録されている個人または法人であり、日本国内で事業を行っていること。
- 交付申請の直近月において、申請者が営む事業場内最低賃金が法令上の地域別最低賃金以上であること。
- gBizIDプライムを取得していること。
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」の「★一つ星」または「★★二つ星」いずれかの宣言を行うこと。
- 補助事業を実施することによる生産性の伸び率の向上について、1年後の伸び率が3%以上、3年後の伸び率が9%以上およびこれらと同等以上の数値目標を作成すること。(過去3年間にIT導入補助金の交付を受けている場合は、1年後の伸び率が4%以上、3年後の伸び率が12%以上の数値目標を作成すること。)
- IT導入支援事業者と確認を行ったうえで、生産性向上に係る情報を事務局に報告すること。
- 事前の調査協力については特別な事情がない限り協力すること。
- 虚偽の申請や不正行為をしないこと。
業種・組織形態 | 資本金 | 従業員 |
資本の額、または出資の総額 | 常勤の従業員数 | |
製造業、建設業、運輸業 | 3億円 | 300人 |
卸売業 | 1億円 | 100人 |
サービス業(ソフトウエア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 5,000万円 | 100人 |
小売業 | 5,000万円 | 50人 |
ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円 | 900人 |
ソフトウエア業又は情報処理サービス業 | 3億円 | 300人 |
旅館業 | 5,000万円 | 200人 |
その他の業種(上記以外) | 3億円 | 300人 |
医療法人、社会福祉法人、学校法人 | – | 300人 |
商工会、都道府県商工会連合会、および商工会議所 | – | 100人 |
中小企業支援法第2条第1項第4号に規定される中小企業団体 | – | 主たる業種に記載の従業員規模 |
特別の法律によって設立された組合またはその連合会 | – | 主たる業種に記載の従業員規模 |
財団法人(一般・公益)、社団法人(一般・公益) | – | 主たる業種に記載の従業員規模 |
特定非営利活動法人 | – | 主たる業種に記載の従業員規模 |
業種分類 | 従業員 |
常勤の従業員数 | |
商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く) | 5人以下 |
サービス業のうち宿泊業・娯楽業 | 20人以下 |
製造業その他 | 20人以下 |
また、B類型に申請する場合は以下の要件が追加で必要となります。
- 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させること。
- 事業計画期間において、事業場内最低賃金を地域別最低賃金の+30円以上の水準にする。
- 申請時点で賃金引き上げ計画を従業員に表明すること。
IT導入補助金(通常枠)の補助対象となる事業・経費
通常枠の補助対象となる事業は、「足腰の強い経済を構築するため生産性の向上に資するITツールを導入する事業を対象とする。」と定められています。
A類型 | B類型 | |
補助率 | 1/2以内 | |
補助上限 | 30~150万円 | 150~450万円 |
補助対象経費 | ソフトウェア費・クラウド利用料(最大1年分補助)・導入関連費等 |
B類型のほうがA類型に比べて補助上限金額が多くなっており、その分申請に必要な要件も多くなっています。
デジタル化基盤導入類型
デジタル化基盤導入類型は、中小企業や小規模事業者が会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフトを導入する際の費用の一部を助成する制度です。これらのソフトは通常枠でも申請できますが、デジタル化基盤導入枠のほうが補助率が高いので注意しましょう。
IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)の対象となる事業者
基本的には通常枠と変わりはありませんが、「IT導入支援事業者と確認を行ったうえで、生産性向上に係る情報を事務局に報告すること。」という要件は不要となっています。
IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)の補助金額・対象経費
デジタル化基盤導入類型の補助対象となる事業は、「補助事業者が会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフト、PC・タブレット等、レジ・券売機等を導入し、労働生産性を向上させるとともに、インボイス制度も見据えたデジタル化を進める事業を補助対象とする。」と定められています。
補助上限 | 合計5~350万円 | |
5~50万円 | 51~350万円 | |
補助率 | 3/4以内 | 2/3以内 |
補助対象経費 | ソフトウェア購入費・クラウド利用費(最大2年分補助)・導入関連費等 |
ここまで紹介した通り、IT導入補助金は小規模事業者から中小企業まで幅広く対応しています。
詳しい公募要項などは以下の公式サイトをご覧ください。
IT補助金公式サイト
事業再構築補助金
事業再構築補助金とは、経済産業省が実施している補助金制度です。「新分野展開や業態転換、事業・業種転換等の取組、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等を目指す企業・団体等の新たな挑戦を支援する補助金」とされています。
新型コロナウイルスの影響により、長期間にわたって業績の回復が見込めない中で、新分野展開、業態転換、事業・業種転換に踏み切り、事業の再構築に挑戦する企業を支援する制度となります。
事業再構築補助金は「通常枠」、「大規模賃金引上枠」、「回復・再生応援枠」、「最低賃金枠」、「グリーン成長枠」、「緊急対策枠」の6つの枠が決められており、枠によって補助内容が異なるので注意しましょう。
通常枠
事業再構築補助金(通常枠)は以下の3つの要件を満たすことで申請可能です。
- コロナウイルスの影響で売り上げが減っていること
- 事業再構築を行うこと
- 認定経営革新等支援機関(税理士や中小企業診断士など)と事業計画を策定すること
従業員規模 | 補助上限 | 補助率 |
20人以下 | 100~2000万円 | 中小企業者等 2/3(6,000万円を超える部分は1/2) 中堅企業等 1/2 (4,000万円を超える部分は1/3) |
21~50人 | 100~4000万円 | |
51~100人以上 | 100~6000万円 | |
101人以上 | 100~8000万円 |
大規模賃金引上枠
多くの従業員を雇用しながら、継続的な賃金引上げに取り組むとともに、従業員を増やして生産性を向上させる中小企業等を対象とした枠になります。
大規模賃金引上枠は通常枠の要件に加え、以下の要件を満たすことが必要です。
- 補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3~5年の事業計画期間終了までの間、事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引き上げること
- 補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3~5年の事業計画期間終了までの間、従業員数を年率平均1.5%以上(初年度は1.0%以上)増員させること
従業員規模 | 補助上限 | 補助率 |
101人以上 | 8000万円~1億円 | 中小企業者等 2/3(6,000万円を超える部分は1/2) 中堅企業等 1/2 (4,000万円を超える部分は1/3) |
回復・再生応援枠
引き続き業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む中小企業等を対象とした枠になります。通常枠よりも補助率が高い点が特徴です。
回復・再生応援枠は通常枠の要件に加え、以下のどちらかの要件を満たすことが必要です。
- 2021年10月以降のいずれかの月の売上高が対2020 年又は2019 年同月比で30%以上減少していること
- 中小企業活性化協議会(旧:中小企業再生支援協議会)等から支援を受け再生計画等を策定していること
従業員規模 | 補助上限 | 補助率 |
5人以下 | 100~500万円 | 中小企業者等 3/4 中堅企業等 2/3 |
6~20人 | 100~1000万円 | |
21人以上 | 100~1500万円 |
最低賃金枠
最低賃金の引上げの影響を受け、その原資の確保が困難な業況の厳しい中小企業等を対象とした枠になります。
最低賃金引上枠は通常枠の要件に加え、以下の要件を満たすことが必要です。
- 2020年10 月から2021年6 月までの間で、3か月以上最低賃金+30円以内で雇用している従業員が全従業員数の10%以上いること
- 2020年4月以降のいずれかの月の売上高が対前年又は前々年の同月比で30%以上減少していること
従業員規模 | 補助上限 | 補助率 |
5人以下 | 100~500万円 | 中小企業者等 3/4 中堅企業等2/3 |
6~20人 | 100~1000万円 | |
21人以上 | 100~1500万円 |
グリーン成長枠
グリーン分野での事業再構築を通じて高い成長を目指す中小企業を対象とした枠になります。
グリーン成長枠は通常枠の要件に加え、以下の要件を満たすことが必要です。
企業規模 | 補助上限 | 補助率 |
中小企業者等 | 100万円~1億円 | 中小企業者等 1/2 中堅企業等1/3 |
中堅企業 | 100万円~1.5億円 |
緊急対策枠
従業員規模 | 補助上限 | 補助率 |
5人以下 | 100~500万円 | 中小企業者等 3/4(※1) 中堅企業等2/3(※2) |
6~20人 | 100~1000万円 | |
21~50人 | 100~1500万円 | |
51人以上 | 100~4000万円 |
※1 従業員数5人以下の場合500万円を超える部分、従業員数6~20人の場合1,000万円を超える部分、従業員数21人以上の場合1,500万円を超える部分は2/3
※2 従業員数5人以下の場合500万円を超える部分、従業員数6~20人の場合1,000万円を超える部分、従業員数21人以上の場合1,500万円を超える部分は1/2
ものづくり補助金
ものづくり補助金とは「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の略称で、中小企業庁が実施している助成金制度です。
中小企業や小規模事業者を対象に支給される制度となっており、生産性向上のための新商品・新サービスの開発や生産プロセスの改善を行うための設備投資の一部を助成してくれる制度です。
補助上限額は750万円から3,000万円、補助率1/2、2/3の制度となっています。
ものづくり補助金には「一般型」と「グローバル展開型」の2つの型があり、一般型の中には「通常枠」、「回復型賃上げ・雇用拡大枠」、「デジタル枠」、「グリーン枠」の4つの枠が設けられています。
枠ごとに補助金額や申請要件が異なりますので解説していきます。
通常枠
革新的な製品・サービス開発または生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資等を支援する枠です。
ものづくり補助金(通常枠)は以下3つの要件を満たすことで申請可能です。
- 事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加させること。
- 給与支給総額を年率平均1.5%以上増加すること。
- 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること。
従業員規模 | 補助上限 | 補助率 |
5人以下 | 750万円以内 | 1/2以内 |
6~20人 | 1000万円以内 | |
21人以上 | 1250万円以内 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠
回復型賃上げ・雇用拡大枠とは、業況が厳しいながら賃上げ・雇用拡大に取り組む事業者(※)が行う、革新的な製品・サービス開発、または生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資等を支援する枠です。
回復型賃上げ・雇用拡大枠は通常枠の要件に加えて以下の要件を満たすことで申請可能です。
- 前年度の事業年度の課税所得がゼロ
- 常時使用する従業員がいる。
- 補助事業を完了した事業年度の翌年度の三月末時点において、その時点での給与支給総額、事業場内最低賃金の増加目標を達成すること。
従業員規模 | 補助上限 | 補助率 |
5人以下 | 750万円以内 | 2/3以内 |
6~20人 | 1000万円以内 | |
21人以上 | 1250万円以内 |
デジタル枠
デジタル枠とは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に資する革新的な製品・サービス開発、またはデジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資等を支援する枠です。
デジタル枠は通常枠の要件に加えて以下の要件を満たすことで申請可能です。
- DXに資する革新的な製品・サービスの開発であること。
- デジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善であること。
- 経済産業省が公開するDX推進指標を活用して、DX推進に向け現状や課題に対する認識を共有する等の自己診断を実施するとともに、自己診断結果を応募締め切り日までに独立法人情報処理推進機構に対して提出していること。
- 独立法人情報処理推進機構が実施している「SECURITY ACTION」の「一つ星」、あるいは「二つ星」の宣言を行っていること。
従業員規模 | 補助上限 | 補助率 |
5人以下 | 750万円以内 | 2/3以内 |
6~20人 | 1000万円以内 | |
21人以上 | 1250万円以内 |
グリーン枠
グリーン枠とは温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービス開発、または炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資等を支援する枠です。
グリーン枠は通常枠の要件に加えて以下の全ての要件を満たすことで申請可能です。
- 温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービスの開発であること。
- 炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供の方法の改善であること。
- 3~5年の事業計画期間内に、事業場単位での炭素生産性を年率平均1%以上増加する事業であること。
- これまでに自社で実施してきた温室効果ガス排出削減の取り組みの有無(ある場合は具体的な取り組み内容)を示すこと。
従業員規模 | 補助上限 | 補助率 |
5人以下 | 1000万円以内 | 2/3以内 |
6~20人 | 1500万円以内 | |
21人以上 | 2000万円以内 |
グローバル展開型
グローバル展開型とは、海外事業に拡大・強化等を目的とした革新的な製品・サービス開発、または生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資等を支援する枠です。(①海外直接投資、②海外市場開拓、③インバウンド市場開拓、④海外所業者との共同事業のいずれかに合致するもの)
グローバル展開型の申請要件は、「①海外直接投資」、「②海外市場開拓型」、「③インバウンド市場開拓型」、「④海外事業者との共同事業型」の4つの類型のうち1つを選び、その類型の各条件を満たす必要があります。詳しい条件については「ものづくり補助金総合サイト」よりご確認ください。
補助上限 | 補助率 |
1000万円~3000万円 | 1/2、小規模事業者の場合は2/3 |
DX推進を検討したい業種
IT業界や広告業界、情報通信系の業界などではすでにDX推進が盛んにおこなわれていますが、一方でDX化があまり進んでいないとされている業種もあります。
- 自治体
- 製造業
- 不動産業
- コールセンター業
- 店舗
- 事務
これらの業種はDX化に対応できるにもかかわらず、ほかの業種と比べると比較的DX化が進んでいないとされています。
上記に挙げた業種以外にも様々な業種がありますが、肉体労働が中心の業種や、人の手じゃなければできない業種はそもそもDX化には向いていません。
ただし、上記に挙げた業種はデジタル技術を使った効率化・ビジネスの変革の可能性を秘めているので、より積極的にDX推進に取り組むことをお勧めします。
DX推進をすべき業種や事例についてはこちらの記事で紹介しています。
まとめ
本記事では、DX推進に使える補助金・助成金について紹介いたしました。
これからの時代に企業が生き残り、そして拡大していくためにはDX推進は必須といえますが、コストの面でDX推進に踏み出せずにいる事業者もまだまだたくさんいるのも現状です。
しかし、今やDX推進を後押ししてくれる様々な制度が整っています。
本記事で紹介した補助金・助成金制度を活用することで、DX推進に必要なコストを大幅に削減することができます。
もちろん補助金の申請には所定の手続きや審査の通過が必要なので、ある程度の手間と時間はかかってしまいます。しかし、DX推進の必要性、コストなどを考えればこうした制度を活用しない手は無いでしょう。
DX推進に取り組む際はこのような制度についても知っておくことが重要です。